こんにちは。
ひつじ編集長です。
今日は『TRANSIT』という素晴らしい旅雑誌について語りたいと思う。
価値の宿る文章ってこういうことなんだと思う。
今の時代旅の記事なんてありふれてるし、書き手の知り合いでない限り読まれることもあまり多くない。綺麗な写真だって検索ボックスに打ち込んだらいくらでも見れる。
そんな時代にあって、この『TRANSIT』の写真や文章はいつまでも手元において、定期的に読んでいきたいと思わせる、なにか魔力のようなものがあるんですね。
去年買った『TRANSIT』 のミャンマー編。作者が泊まったコテージから見た、嵐の一部始終。それは突然やってきて、そして何事もなかったかのように去っていった。
雲がタウン・カラッの真上を通過すると周囲は色を失い、まるで世界の終わりが迫ってくるように錯覚に陥った。
アニミズムと呼ばれる原始宗教を成り立たせていたのは、人間の自然に対する恐怖心だといわれる。まさに目の前で起きたような超常的な現象を、この土地に生きた祖先たちはカミガミの仕業と畏れたのだろう。古の精霊たちが交錯する小宇宙に紛れ込んでるのだと、私はようやく理解した。
すぐに空は色を取り戻し、軽やかにさえずる野鳥の群が空を横切った。再び顔を出した太陽が地平線の西に傾こうとしている。何事もなかったかのように世界は再起動された。
引用:『TRANSIT』 発刊第20号 2013年 Spring
あー、全部の文章を書きたいんだけど、なんか著作権侵害怖いし、全部は書けないけど、この一文を読んだとき、プロのライターってこんな文章が書けるのか、って驚嘆した。
平坦な紙面に無機質に連ねられたかのように見える、文字が生きてる。作者の感動と驚きがドクドク伝わってくる。
知らず知らずのうちに読み進めちゃうわ。
これが価値のある文章か、と。TRANSITのライターすげえ。
他の旅雑誌や写真集とは一線を画す
この雑誌の旅はね、今流行りの『台湾!女子ぷちトリップ! 』とか『夢の世界一周豪華客船!』みたいな感じの旅じゃなくて、『何もないけど全てがある』みたいな感じの、わかりますでしょうか。
いやそもそも読者のターゲット層が違うんで、比較に出すのもナンセンスかもしれないですけどね。
でも沢木幸太郎の『深夜特急』に憧れて旅をした僕の求める旅っていうのはこれぞ、旅って感じの旅なんですよね。ときには何ヶ月もその地で生活をし、現住民と深く関わり合う。そして、何千年の時を経て練り上げられた彼らの価値観と触れ合う。
TRANSITではそういう旅をフィルム調の素晴らしい写真と共に見せてくれるんです。
是非雑誌を開いてパチリと写真撮って、ここに載せたいんだけど、それも著作権云々でやめとくわ。(Amazonの販売ページの写真でとどめとく)
というかね、この雑誌はデジタルで見るより、絶対に手に取ってパラパラしたほうがいい。なんでかっていうと、この雑誌、「紙の質」が他の雑誌と違うんですよ。
月刊雑誌とかって、ツルツルしてて、いかにも「大量生産しました。読んだら捨ててね。」みたいな感じなんだけど、TRANSIT の紙質は、すこーしザラザラしてて、厚みがあって。この質感が、文章だったり、写真だったりの価値を高めることに大いに寄与してる。
本屋に行って、一回手にとって見てください。すぐにわかると思います。
買いたくても買えなかった学生時代
僕がこのTRANSITという雑誌を見つけたのは、学生時代の書店でアルバイトしてるとき。当時ちょうど、ミャンマー編が平積みで置いてあって、表紙に「美しきミャンマー 黄金のラプソディー」 っていうキャッチコピーが目に飛び込んできたのを覚えてる。
たくさんある雑誌の中で明らかに、この雑誌だけが明らかに光ってた。黄金だけにね。
で、とりあえず立ち読みするため、用事があるフリをして倉庫に持ち込んだ。表紙の期待を裏切らず、というか期待値以上の中身だった。
「こりゃ買いですわ !」
って思って後ろの値段みたんだけど…
「定価1800円」
「…。」
当時金のない大学生が、いくら素晴らしい雑誌に出会ったとはいえ、雑誌に1800円は無理だった。
ときは流れて社会人。少しお金に余裕ができたときにバックナンバーでTRANSITを買った。
大満足。今でも手元に置いてたまにパラパラしてる。
今ではむしろ、この価格が雑誌の価値を高めているとすら思う。
編集長が素晴らしい。
旅も英語も仕事も、壮大なコメディのつもりで臨むといい。『TRANSIT』編集長・加藤直徳氏の “世界” との向き合い方 | DMM英会話ブログ
このTRANSITを編集する「加藤直徳編集長」が素晴らしい。
何が素晴らしいかって、旅で得た感情や、感動をこれほどわかりやすく、鮮明に魅力的に綴り、編集してるところ。と僕は勝手に思ってる。
目の前で起きている現実が強烈だったんです。情報は自分の目で見ないとわからない。いかに今まで「編集者をサボっていた」か実感できたんです。与えられた知識の集積が編集なのではなく、自分自身の血や肉となった経験・感覚を発信していかない限り、編集者としての道は開けないと確信しました。
旅も英語も仕事も、壮大なコメディのつもりで臨むといい。『TRANSIT』編集長・加藤直徳氏の “世界” との向き合い方 | DMM英会話ブログ
旅の感動話や素晴らしい体験って、ブログに書いたとしても、誰かに話したとしても、体験したとき以下の伝わり方しかしないでしょ?
でもこのTRANSITでは、旅で得た驚嘆・感動がまるで自分が経験したかのように、いやあるいはそれ以上の感覚で、バシバシ自分の心の中に入ってくる。
でも編集長がいうように、結局は自分でその場にいないと本当の体験はできないし、血肉にはならないんだろうな。
TRANSITすげえです。僕は、感動してる。
まとめ
そんな感じでね、今日はお休みなので、TRANSITをパラパラしてたんです。ページを開く度に新しい感動が待ってる。
この先もずっと残しておきたい雑誌。
価値のある雑誌、価値のある文章、価値のある写真ってこういうことなんだな。